平成28年5月18日
部活動指導-その意義と課題-
「ブラック」な部活動顧問
新年度を迎え、高等学校の運動部では3年生の引退をかけた最後の公式戦が始まっている部活動もある。勝利至上主義ではないが、一生懸命練習に励んできた生徒たちに何とか達成感を与えたい、そういう思いで多くの顧問の先生が頑張っている。
しかしながら、日々の授業やクラス担任、校務分掌等の業務を抱えながら、放課後、休日も返上して部活動の指導にあたるのはことのほか大変である。安全管理に不備があってはならないし、部員同士のトラブルや保護者への対応が発生する場合もよくある。
そんな中、部活動を負担に感じる公立中の若手の先生方が部活動の顧問を強制しないように、現状の改善を求める署名をインターネットで集め、要望書とともに文部科学省に提出したというニュースが注目を浴びた。3月8日付朝日新聞の記事によると呼びかけ文では「部活がブラック過ぎて倒れそう。顧問をする、しないの選択権を下さい!」との訴えがあり、顧問を拒否した方もいるという。
部活動の位置づけ
このメンバーは「部活動対策プロジェクト」というサイトを立ち上げ、情報発信をしている。中身を見てみると、部活動の意義を否定するのではなく、休日もない過重労働のために授業やクラス経営、生徒に向き合う時間がとれないという切実な問題を訴えるとともに、本来生徒の自主的活動であるべき部活動への強制入部を問題にしている。文部科学省に提出した要望書には顧問をする・しないの意思確認の調査をして教員、生徒にとって自主的・自発的な参加によって行われるという位置づけにすることや、学習指導要領に、教員の過剰負担にならないよう配慮する旨を付記すること、そして部活動の顧問を希望しない教員がいても部活動の運営が成立するよう部活動指導員を確保することなどを求めている。
中学校の学習指導要領では部活動の教育的意義を評価し、教育課程との関連が図られるよう留意することを求めてはいるものの、職務上の位置づけが曖昧で顧問の善意によって成り立っているところに課題がある。さらに文部科学省も「チームとしての学校」の体制の整備として、「部活動指導員」(仮称)の導入を検討しており、ある意味現行制度の矛盾をついた筋の通った主張であるとも言える。私たちも職員団体として、せめて頑張っている先生方のためにとの思いで部活動手当の増額を求めてきた経緯がある。
なぜ部活動指導をするのか
育児や介護など家庭的な事情を抱えた職員もいるため、公平に業務として負担することが困難であることや、技術的な専門性がなくても顧問を引き受けなければならないという現状から、部活動指導には不安や不満を持つ教員が常に少なからずいる。地域人材に任せるといってもその受け皿が不十分な地域も多いだろうし、財政的にも待遇の改善も現状では難しい。それでもなぜ私たちは多大なエネルギーを費やして部活動指導をやるのか。それは「教育的意義が種々のデメリットを上回る」の一言に尽きると思う。
クラス経営とは違った側面で生徒を見ることができ、生徒の多面的理解が得られること、生徒や保護者とはクラス担任以上に深いつながりができ、教師としての財産となる可能性があること、さらには、苦しいことも多いがその先に経験した者しかわからない感動があること、などがある。つまり、生徒の人間的成長を間近に見ることができ、教師自身の成長も大いに期待できるということだ。
急激な改善はなかなか難しいところであるが、もしこの若い教師たちの同僚であったならば、同僚として粘り強く話を聞き、なんとか共にやっていけないか模索したことと思う。そしてマネジメントの問題として学校目標と部活動の関連を図り、その意義をより一層明確にすること、さらにその実現のための同僚性を再構築することが改善のヒントになるのではないかと考えるところである。
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