平成28年8月8日
高等学校における合理的配慮はどのようにあるべきか
(上記表は文部科学省より)
「教育制度一般」の解釈
中央教育審議会初等中等分科会「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築のための特別支援教育の推進(報告)」(平成二四年七月、以下『報告』と記す)では、「障害者の権利に関する条約」(以下『条約』と記す)にある「general education system(仮訳:教育制度一般)」を特別支援教育も含めた公教育全体と解釈し、合理的配慮については特別支援教育における取組の延長か、または同様の手立てを含むものと捉えている。しかし、『条約』では合理的配慮と「特別な支援や教育」を分けて解釈し、実際、『条約』内の「general education system」は、特別支援教育を含まない通常の教育と解釈すべきとの指摘もある。合理的配慮は、学習集団全体において一斉指導を行う際、障害や困難さのある生徒に生じる不平等を解消するために提供するものである。特別支援教育における個別の課題への教育的対応とは考え方や手立等は全く同様とはならないのではないか。これを高等学校等に当てはめ、特別支援教育の手法と同様に合理的配慮を提供すると解釈するのは正確とはいえないであろう。障害をもつ生徒を含む多様な生徒達が、一定の学習集団での活動に融和し、一斉指導の下で可能な限りの学習効果等の平等を保障することが合理的配慮提供の基本であることを押さえておくべきである。
合理的配慮と特別支援教育
『条約』は、障害の有無にかかわらず、通常の教育の場で教育を受ける(インクルーシブな)教育環境の実現を理念とする一方、特別支援教育の大切さも示している。「第二十四条 教育」には、障害のある幼児児童生徒に対して特別な教育的ニーズへの対応の在り方について触れ、重度の障害をもつ者への個別化された教育の大切さ、視覚障害者や聴覚障害者のコミュニケーションに関する教育の必要性を示している。一斉指導による通常教育では効果的な教育ができない場合、個別的な指導を行い、個々の教育的ニーズを充足することの必要性を認めている。特別支援学校入学の可能性も含め、最も教育効果の高い学校への就学支援を行うことで、高等学校で合理的配慮を提供する効果も増していくと考える。
基礎的環境整備
基礎的環境整備とは、障害のある生徒等に関わる専門性や教育システム、施設設備、教材環境等を含む教育資源のことである。校内委員会の機能、他機関との連携のシステムも基礎的環境整備の一つであり、合理的配慮が個別的に対応するのと異なり、あらゆる障害種に対応できる教育環境を整備することである。『報告』では合理的配慮の前提には基礎的環境整備があり、「必要な財源を確保し、国、都道府県、市町村は~中略~インクルーシブ教育システムの構築に向けた取組として、『基礎的環境整備』の充実」が必要だと論じている。高等学校教育では、障害のある生徒を受入れ可能とする施設設備の充実に向けて手厚い予算の確保が望まれる。また、校内支援体制の構築は基礎的環境整備の一環とされる。合理的配慮に関する重要決定機関として校内委員会等を位置づけ、課題解決に向けた適切な委員を選定することは優先して進めたい。合理的配慮の決定から実行レベルへの移行まで、学校全体での組織的な対応を実現していくことが重要だといえる。
「合理的配慮」の決定と提供
障害のある生徒の入学前の検討段階では、本人・保護者の意見の他、卒業予定学校、その他専門機関等の情報を十分に収集しながら具体的な合理的配慮を検討しておく。入学前であっても、卒業後の進路や生活等も含めた中・長期的な教育支援について、校内委員等の支援の核となる者の間で最低限の共通理解を図る。それらの対応を経て、入学後は速やかに合理的配慮が提供できるよう準備することが必要であろう。また、提供にあたっては、「体制面、財政面において過度の負担」となる明確な合理的配慮の基準はなく、各学校の判断に委ねられている。合理的配慮が「体制面、財政面において過度の負担を課さない」ものであるかも含めて、校内委員会で十分に検討し、決定事項は保護者・本人との合意形成を図るとともに、校長の責任の下で組織的に進めていく必要がある。
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