平成28年9月15日
主権者教育~選挙後こそ本格的に~
主権者教育、一定の成果
総務省の発表によると、選挙年齢が引き下げられて初めての参議院議員選挙では、新たに有権者となった十八、十九歳の合計投票率(抽出調査)は45.45%であった。全体の投票率54.70%を下回っている。年齢別では、十八歳が51.17%、十九歳が39.66%とのことである。ちなみに福岡県は十八歳が55.90%、十九歳が45.37%であった。この数字をどう見るかは意見が分かれるところだが、二十歳代の最近の国政選挙での投票率が30%台半ばであることを考えれば一定の成果はあったのではないかと考える。また、十八歳が十九歳よりも10ポイント以上高いのは、十九歳の有権者が一人暮らしで実家から住民票を移していないなどの事情もあったのだろうが、十八歳に対する啓発、教育が影響を及ぼしたものと考えてよいだろう。やはり選挙権を与えられる最初の段階で投票を促すことは大切で、今回の成果を持続できれば、少しずつ全体の投票率を押し上げることも期待できる。第一回の記念行事的なもので終わらせず、意識付けを継続的に行っていくことが肝要だ。
政治的中立性について事例収集を
主権者教育を行うにあたっては、教師側の政治的中立性の確保が課題となった。自民党は公式ホームページで「学校教育における政治的中立性についての実態調査」として、教育現場での政治的中立を逸脱するような不適切な事例を募るアンケートを実施した。これに対して、「戦時中の密告と同じだ」、「教師が萎縮する」などの数多くの批判が上った。しかし、先行事例が少ないわけだから、様々な事例を蓄積し、合法かどうかの明確な線引きを図り、学校現場に周知するべきではないだろうか。
どのようなことが中立性を逸脱することになるのかが具体的に分かれば、現場の教師も取り組みやすくなるし、行き過ぎた事例が多ければ、今後、罰則規定を検討することも必要であると考える。
若者こそ大きな視点を
今回の参院選では、各党とも、十代の票を取り込むために、奨学金や最低賃金の引き上げなど、若者の直近の課題についての公約を掲げた。こうした課題に若者達の意見を反映させることはもちろん大切であるが、国政選挙においては、日本の将来を担う者として、若者こそ、国家の在り方や未来像を見据えて投票するという視点も必要だ。今回の主権者教育は、「投票する」という行動自体に重きを置いた指導が多かったのではないかと考えられるが、今後は「どのように考えて」投票するかという教育が重要となる。「憲法改正」の問題や日本の安全保障や国防といった国の形に関わる大きな課題についても積極的に取り組んでいきたいところである。
志を持った「大人」にする教育へ
主権者教育の目的は選挙関連だけでなく、その対象も高校生に限らない。今年六月に出された文部科学省の「主権者教育の推進に関する検討チーム」の最終まとめでは、その目的を「主権者として社会の中で自立し、他者と連携・協働しながら、社会を生き抜く力や地域の課題解決を社会の構成員の一員として主体的に担うことができる力を身に付けさせる」こととしている。また、次期学習指導要領において、新科目「公共」が高校の必履修科目として検討されており、より体系的な主権者教育が期待される。
「公職選挙法等の一部を改正する法律」の付則では、選挙権年齢の引き下げに伴い、民法、少年法などの規定についても検討することに触れており、今後、改めて成年年齢の引き下げも議論されることとなる。賛否両論あるが、少なくとも自己の権利のみ主張するのではなく、国家や社会に対する義務や責任も合わせて考えることができることが「公共」の精神であり、「主権者」としての資質である。この点を踏まえ、主権者教育を特定の科目や領域に落とし込むのではなく、道徳教育やキャリア教育との関連を図るなど発達段階に応じて適切に行い、十八歳までに志を持った「大人」にしていく教育が求められてくると考える。
※本稿は平成二十八年八月十一日に産経新聞九州山口面に掲載された「一筆両断」に修正を加えたものです。
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