平成26年4月1日
「私たちの道徳」を読む
「心のノート」を全面改訂
文部科学省において道徳の教科化に向けての議論が行われているが、従来の「心のノート」が全面的に改訂されて、「私たちの道徳」として本年度より全国の小・中学生に配布される。「心のノート」は文部科学省が作成した道徳用の教材であり、小学校1・2年生用、3・4年生用、5・6年生用、中学校用に分かれ、それぞれ学習指導要領の道徳の各項目に従って詩やコラム、写真やイラストなどで構成されている。今回の改訂によって誕生した「私たちの道徳」は、ページ数が「心のノート」の約1.5倍となり、従来の形式に加え、読み物を多く盛り込む形で構成されている。また、「心のノート」の特徴であった児童・生徒の感じたことや考えたことを書き込むことができる点は引き継がれている。いじめや情報モラルなど最近の教育問題・社会問題についてもさらに多くの紙面を割いて取り扱っている。充実した内容
実際に「私たちの道徳」を読んでみると、内容の充実が大きく図られたという印象を受ける。エルトゥールル号とトルコの恩返し、米百俵などの日本人として知っておくべき出来事や、二宮尊徳、上杉治憲など義務教育で教えなくなった代表的日本人も多数取り上げられている。さらに現在の有名なスポーツ選手や最近活躍した話題の人物が登場する一方で、決して著名でなくても誇りを持って社会に貢献している人たちも多く扱っている。こうした偉人、先人の言葉や生き方を手本として学ぶことを重視している点は大きく評価できる。また、家族やいじめなどの題材を扱った物語も一つ一つ深く考えさせられ心に残るものとなっている。ただ、小学校1・2年生用については、発達段階に配慮して、動物等を主人公とした物語が多く掲載されているが、一般的な絵本と変わらない印象を受ける。低学年こそ、正しいことを直球で教える必要があるのでないか。学年が上がるにつれて、「私たちの道徳」の内容は深いものになっていくが、特に5・6年生用、中学校用のコラムや物語は、大人が読んでも心に滲みるものが多い。教師の指導力向上がカギ
従来の道徳の授業が、指導法の確立や共有が不十分であり、また、授業だけで完結して実際の生活には生かされていないという問題点が指摘されている。一層の充実を図るためには学校の教育活動全体で道徳教育に取り組む姿勢を忘れてはならない。要となる道徳の授業を子供一人ひとりの生き方にどのように結びつけさせるかが大きな課題である。そのためには授業を行う教師自身の力量の向上が大前提となる。「私たちの道徳」の活用法の研修・研究をきっかけとして、子供の自尊心向上のための評価法の開発や生徒指導との連携を含めた指導力の向上につながることを期待する。検定教科書は子供に誇りをもたせる内容に
文部科学省は、将来的には検定教科書も視野に入れて議論を進めている。道徳は教員免許を取得した専門教科ではないために、教師にとって教科書の果たす役割は大きい。出版会社も採択に向けて、こうした教師の意向を反映した教材の開発に競って努めることが期待される。しかし、その際に極端な平等主義や個人主義、ジェンダーフリー、意図的に国民としての自覚を薄める「世界市民」的な発想・価値観に陥らないように検定の在り方については十分な検討が必要である。また、神話や国旗・国歌について、日本人として身につけるべき内容をさらに充実させるべきである。グローバル化の中、他国の国旗・国歌や文化を尊重することも大切である。例えば育鵬社の中学校公民の教科書には、他国で活動中の青年海外協力隊が国旗降納の際に敬礼せずに作業していたら役場に連行されたという話が掲載されている。こうした話題をもとに自国同様に各国の国旗・国歌や伝統文化を尊重する姿勢を学ばせたい。家庭や地域との連携、高校への引き継ぎを
学校で道徳について学んでも周囲の大人のモラルが低ければ、効果は半減してしまう。家庭や地域との連携が必要である。そこで、家庭や地域の大人達も「私たちの道徳」に触れる機会がほしい。戦前の修身で扱われた物語のように国民として共有していたものの多くが失われた今、改めて世代を超える共通の道徳教育の材料が必要不可欠である。高等学校の教師も、小中学校での道徳教育の在り方を研究することが重要であり、いかに「生き方在り方」を考えさせる教育につなげていくかが課題となる。「私たちの道徳」は、文部科学省のホームページからダウンロードして、誰でも簡単にその内容に触れることが出来る。まずは、一読をお勧めする。福岡教育連盟では、引き続き道徳教育の充実に向けた研究を進めていく。
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