福岡教育連盟は教育の正常化を目指し、日々教育活動に励む教職員の集まりです。

私たちの主張

Opinion

平成25年12月1日

真の人材育成につながる学力テスト活用を


四年ぶりの悉皆調査

文部科学省は平成25年8月27日、小学6年生と中学3年生を対象として4月に実施した「全国学力・学習状況調査」の結果を公表した。民主党政権がコスト削減などを理由に約3割の抽出方式に変更していたが、今回4年ぶりの悉皆調査が行われた。全体としての傾向は、基礎問題を問うA問題の正答率が高く、応用力を試すB問題に課題が残るとの傾向は変わらないが、文部科学省は「正答率が低かった都道府県について改善傾向が見られ、全体として底上げが図られている」と分析している。
この調査では、学力テストと併せ、児童生徒に、学習意欲、生活習慣などを質問し、学校には指導方法や児童生徒の学習態度を聞く「質問紙調査」も実施されている。「習熟度別少人数指導」の効果や「土曜の過ごし方」「コミュニケーション能力」等、現在の課題に対する実態調査も行われており、今後の学力向上策に大いに活かしたいところである。 本連盟では以前より悉皆調査を求めてきた。客観的なデータによって「閉鎖的」と見られる学校の実態を明らかにするとともに、改善のために適正な競争原理を働かせる必要性があると考えるからである。

「学校別成績公表」容認への流れ

さて、本年度のテスト結果については成績を公表する動きがでている。特に議論を巻き起こしたのが静岡県の川勝平太知事である。「国語A」で成績下位の小学校長の校長名を公表する考えを表明したが、反対を受け成績上位校の校長名を公表した。教育委員会や学校に不信感を持つ保護者にとっては、全国や県内での位置を知り、教師に結果責任を求める声もある一方、経済状況が厳しい家庭を多く抱えるといった地域の事情も様々であり、改善策になり得ないという批判も当然ある。これまで文部科学省の実施要項は自治体が学校別結果を公表することを禁じる一方、学校が独自に公表することについては学校の判断に委ねるとしていた。しかし「全国学力調査に関する文部科学省の専門家会議」の提言を受け、文部科学省は市町村教委の判断において学校別成績の分析結果や改善方策を併せて公表できるよう来年度の実施要項を改めた。

本質は授業改善と教育環境の整備にある

TOSS代表の向山洋一氏は、静岡県の教材選択の在り方に問題点があることを指摘している。氏によれば編集が静岡県校長会、県教職員組合、県出版文化会で教材作成責任者が静教組教育運動部長がつとめる教材を選ぶことが慣習となっており、担任が見本を見て選ぶことができないという。また、国語のテストのレベルも低いと指摘している(産経新聞11月23日 解答乱麻)。このような不正常な実態が明るみに出るのは、公表や知事の投げかけがあったからこそと言える。つまり旧態依然とした閉鎖的な学校現場の実態の改善につながるのであれば公表は効果的である。
しかしながら、この調査の本来の目的を今一度振り返っておくことが重要だ。文部科学省では目的を三点挙げている。①教育成果と課題を検証し、その改善を図ること、②学校における児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善等に役立てること、さらに③教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立することである。つまり、地域に課題があれば、教育委員会は教育環境の整備により学校や教師をバックアップすること、教師は経年変化を見ながら日々授業改善に取り組み、一人一人の児童生徒の学力保障に責任を持つことである。ねらいは明確なビジョンのもと、教育委員会、学校、教師のベクトルをそろえることにある。

学力の養成へ本気の覚悟が必要

文藝春秋12月号に掲載された藤吉雅春氏(ノンフィクションライター)による「文科省成長戦略を後押しする『教育改革』」は日本の教育行政の人材育成の戦略について新しい可能性を見出している。以下内容の一部を要約する。詰め込み教育、ゆとり教育、脱ゆとりと迷走を続けてきた教育政策が、いわゆる「PISAショック」により大きな転換を迫られ、グローバル社会に求められる新たな価値を生み出すための思考力や判断力に課題が大きいことを明確に示した。以前から目標とされた思考力、表現力、生きる力を機能させるためのキーワードが「言語化」であり、言語活動の充実を謳う学習指導要領に反映され、さらに「指導改善」をねらう全国学力テストの問題作成が学習指導要領を浸透させることにもなり、PISAにおいてはV字回復が見られた。ただ、課題は学力の二極化であり、新しい中間層こそ、次の時代を動かしていくというのが文部科学省の方針となっている。
グローバル人材育成のための英語教育の在り方についても、「思考力、判断力を育成するための言語教育はいかに在るべきか」という問いに対して答えが見いだされるべきであろう。
義務教育のねらう学力観はそのまま高等学校に接続し、大学教育へと引き継がれる。この縦軸は未整理であるが、早期に資源のない日本の人材育成の在り方のビジョンを明確にし、真の人材育成につながる学力養成に当事者意識を持って本気で取り組む教師が今求められている。