平成29年8月31日
新科目「公共」に期待するもの
■新しい科目「公共」の設置
平成34年度から年次進行で実施される高等学校の新学習指導要領において、公民科の新しい科目「公共」が設置されることとなっている。次期学習指導要領の改善を求める中教審の答申では、主体的に社会の形成に参画しようとする態度が不十分であることや、社会的な見方や考え方については、その全体像が不明確であり、それを養うための具体策が定着するには至っていないこと等を現行の課題に挙げ、自立した主体として他者と協働しつつ国家・社会の形成に参画し、持続可能な社会づくりに向けて必要な力を育む共通必履修科目とするとしている。■背景にあるもの
背景にあるものとして、まず、自民党の政策集で、道徳教育や市民教育、消費者教育等の推進を図るため、新科目「公共」の設置が提言された。その後、選挙権年齢18歳以上への引下げに伴い、高校生の政治的教養の教育や政治参加への意識高揚など、いわゆる主権者教育を行う必要性が高まった。そして中教審教育課程特別部会「論点整理」で「歴史総合」、「地理総合」とともに「公共」の設置が記述されたという経緯がある。■人間教育の基盤に
これまでの「現代社会」の中にも共通する部分があると思うが、今回の「公共」については、規範意識や社会とのつながりの意識を高めるための道徳教育の観点や、自らよりよい社会を求めて行動する力を養うための主権者教育、また主体性をもって社会の中で自らの生き方を考えるキャリア教育的な観点を多分に含む内容になるのではないかと考える。いわばある一つの科目や領域というよりも社会人としての基盤を育成する人間教育の根幹をなす部分を含むものと考えることができるのである。■期待される「公共」の役割
小中学校においては道徳が「特別の教科 道徳」となり、道徳教育の賛否論争にピリオドが打たれた。これまで形骸化などの課題も指摘されてきた道徳であるが、教科としての道徳が要として教育活動全体の中で、一層重要な役割を果たすことが期待されている。高等学校ではこれまで人間としての在り方生き方に関する教育を、「公民科」や「特別活動」のホームルーム活動の中心として、学校の教育活動全体を通じて行うこととされていたが、「公共」に、小中学校の「考え、議論する道徳」の観点が引き継がれるべきだと考える。主権者教育に関しては、制度改正後初の国政選挙も行われ、その際には投票率や政治的中立への現場の対応のみに関心が集中する傾向があった。「公共」設置により、そういう表層的な議論に留まらず、国家存立の基盤を支えるためには何が必要なのか、といった本質的な課題について考える時間とする必要があると考える。
また、キャリア教育の意義は本来、社会のリアルを知り、自分がいかに社会貢献をなすかという「志」をつくることにある。とすると知識やスキル以前の部分として「公共」でできることもあるのではないかと考える。
■今後の課題
さて、一科目である「公共」に過度な期待を持ちすぎているのかもしれない。しかも共通必履修科目とはいえ、標準単位数は2単位に過ぎない。とうてい今述べた内容が一部の教師が担う「公共」のみで達成できるはずもない。なぜ「公共」に期待するのかというと、教育基本法の第一条にある「国家及び社会の形成者を育成する」ということ、そして「国民を育成する」という部分において、「公共」が直結すると考えるからである。そうなると、「公共」の内容は一つの科目を超えたところにあり、すべての教師が教えられる力を備えなければならないということになる。また、次期学習指導要領のキーワードである、「カリキュラムマネジメント」や「社会に開かれた教育課程」の意味も自ずと明らかになるのではないかと考えるところである。我々の目指す「真の人間教育ができる教師」となるために、「公共」は一つの鍵となるのではないかと考えるのである。
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