福岡教育連盟は教育の正常化を目指し、日々教育活動に励む教職員の集まりです。

私たちの主張

Opinion

平成25年4月1日

「道徳教育の教科化」を考える

教育再生実行会議第1次提言を読む

平成25年2月26日、政府の教育再生実行会議は「いじめの問題等への対応について」(第1次提言)をまとめた。柱は次の通りである。
1、(一部略)道徳を新たな枠組みによって教科化し、人間性に深く迫る教育を
行う
2、社会総掛かりでいじめに対峙していくための法律の制定
3、学校、家庭、地域、全ての関係者が一丸となって、いじめに向き合う責任あ
る体制を築く
4、いじめられている子を守り抜き、いじめている子には毅然として適切な指導
を行う
5、体罰禁止の徹底と、子どもの意欲を引き出し、成長を促す部活動指導ガイ
ドラインの策定
ここでは、1に着目し、道徳の教科化について考えたい。この提言はいじめ問題への対応としての提言なのであるが、これまで種々論じられてきたような制度の改革にとどまらず、抜本的な防止対策として道徳教育の充実を図ることが論じられている。「国が道徳教育を充実させる」「道徳の教材を抜本的に充実するとともに、道徳の特性を踏まえた新たな枠組みにより教科化し、指導内容を充実し、効果的な指導方法を明確化する」とあり、強い意気込みが読み取れる。 ぜひ実効ある策を望む。

道徳教育形骸化の歴史と文部省の抵抗

菱村幸彦氏(清真学園理事長)は、「道徳の教科化は、戦後教育に残された最後の課題」であると述べている。(『内外教育』平成25年3月26日)現場ではいまだに道徳教育=軍国主義へとつながる「教育勅語」「修身科」の復活という短絡思考の空気が残る。高橋史朗著『検証戦後教育』(広池出版)によれば、戦後占領政策により修身科は軍国主義の元凶として排除されたが、当初は文部省も抵抗しており、公民的知識と修身科の徳目を結合させ、道徳の実践を図る「公民教育構想」を打ち立てていた。ところが占領軍により、「社会科」という社会科学の学問領域へと転換させられたのである。ここで日本人が戦前からもっていたモラルの連続性が断絶し、「しつけ」不在の教育、道徳的価値観の混乱が今日まで続くことになる。文部省は昭和33年「道徳の時間」を特設するが日教組等の激しい反対により、教科ではなく領域であることを強調した。この流れはその後も続き、小渕内閣の教育改革国民会議による教科化の提言、第1次安倍内閣の教育再生会議による徳育科の提言も実現されることはなかった。菱村氏の「三度目の提言である。とにかく一度『教科』にしてみようではないか」という言葉はこの歴史を踏まえると重みがある。

心を揺さぶる感動がポイント

今回の提言では先に示したように「人間性に深く迫る教育」という言葉が用
いられている。このことは教材の内容の充実と教師の指導力が重要であることを意味している。提言には「具体的な人物や地域、我が国の伝統と文化に根ざす題材や、人間尊重の精神を培う題材などを重視する」とある。改正教育基本法を踏まえ、平成20年3月に公示された小・中学校の新学習指導要領においても児童生徒が感動を覚える教材の開発・活用を規定しており、学習指導要領の趣旨に沿った形で、生き方のモデルを示す「偉人伝」など教材の充実を図ることが必要である。現時点では副教材や自民党政権となり全員配布となった心のノートの改訂ということになろうが、教科化となれば他教科同様に検定教科書を作るべきである。ぜひ、教師、生徒そして保護者も読んで感動できる教科書を望む。また、現在でも県によっては郷土の偉人を伝える教材を作成しているところもあり、地域も主体性を持ってかかわり、社会全体のメッセージとして子供の徳の育成に取り組む気運が望まれる。同時に教師の指導力向上のための研修や教員養成段階での充実が図られるべきだということは言うまでもない。

制度設計にあたっての留意点

まず、問題となるのが「評価」であろう。道徳は成績評価に馴染まないという否定的な見方は当然出てくるが、筑波大学付属小学校教諭の山田誠氏は「評価をしなくていい、“今”すぐ生徒の態度に直結する必要はないとの前提で道徳教育をおこなうことは、先生のきちんと教えるという責任を放棄させ、授業への緊張感を削ぐことにつながっていると思います。」と述べている(『教育再生』平成25年3月号)。評価を行うためには、児童生徒の行動の観察をより緻密に行う必要性が生じるし、生徒指導と関連させることにより、いじめ防止、規範意識の醸成にもつながるものと考える。始めから否定ありきではなく、望ましい評価の在り方について検討していくべきである。
また、学校現場の多忙化も考慮に入れる必要がある。きちんとした道徳教育が行われなかったことの証とも言えるが、今学校では保護者対応に膨大なエネルギーが注がれている。加えて何か問題が起こると調査や報告などが入る。ゆとり教育の反動で学習内容も大幅に増え、学力向上も大きな課題だ。徳育を土台に据えた学力と体力の育成というシンプルな視点から、義務教育段階でやるべき事を焦点化し、ただ単に今の状況に道徳教育の教科化を付け加えるのではなく、定着のための思い切った予算と人員の配置を望む。誇りある日本人の育成のために日本の歴史や伝統を基盤とした道徳教育の充実を「教科化」によって実現するべきである。