平成27年7月20日
中学校教科書、公正・適切な採択の検証を
教科書採択制度の改革
本年度は、平成二十八年度から四年間使用される中学校教科書の採択の年であり、八月末までに各採択地区で選定されたものを教育委員会が決定することになる。まず、義務教育の教科書採択制度を整理する。公立小中学校においては、教科用図書無償措置法により、単独または複数の自治体によって構成される採択地区においてどの教科書を使用するかが協議され、その協議結果に基づいて各教育委員会が決定することになっている。昨年度の法改正により、市郡単位で構成していた採択地区を市町村単位で設定できるようになった。また、文部科学省は、今年四月、今まで行われてきた「絞り込み」を禁止する通知を出した。「絞り込み」とは、採択協議会での審議の前に、調査員である教員らが選考対象を二、三冊に絞り込み、他の出版社の教科書を協議資料から排除する行為である。これを禁止することで一部の教員の意向のみで教科書が決定することを防ごうという意図である。これらの改革によって、各採択権者(教育委員会)による責任ある採択が促進されることが期待される。
保守系・非保守系の教科書
こうした中、中学校社会科教科書の採択において、保守系の二社の教科書に対するネガティブキャンペーンが四年前同様、凄まじい。今回の検定では、中学校社会の歴史分野で八社、公民分野で六社のものが合格しているが、これらは育鵬社、自由社の二社がそれぞれ出版している保守系の内容の物とそれ以外の出版社の物とに分けられる。
ただ、昨年一月の学習指導要領の解説書改訂で、竹島と尖閣諸島について記載されたことを受けて、今回は社会科の全ての教科書に関連する内容が載るなど、保守系二社以外でも日本の領土に関する記述が大幅に増加した。また、近現代史で通説的見解がない事項の記述にその旨を明示することや、政府見解や確定判決を踏まえた記述を求めた新たな検定基準が適用され、全体的には保守系の内容に近づいてきている。それでも、保守系二社の教科書だけを「戦争賛美の教科書」として、排除する動きが強いのである。
「戦争賛美の教科書」の実態
長くなるが、ある出版社の中学校歴史教科書の文章を引用する。「中国や東南アジアなど日本軍が進攻した地域では、兵士や民衆に多くの犠牲者が出ました。インドネシアでは、日本語教育や神社参拝を強いたことに対する反発もありました。フィリピンでは、アメリカと結んでゲリラ活動を行う勢力に日本軍はきびしい対応をとり、多くの一般市民も犠牲となりました。連合国軍の反攻がはげしくなると、物資や労働力の確保を優先する日本軍によって、現地の人々が過酷な労働をさせられることもしばしばありました。」
この部分だけを読めば、保守系二社以外の教科書の記述だと思うかもしれないが、これは保守系の一つである育鵬社の歴史教科書の記述である。ところが、反対運動を展開している左翼・市民団体は、「日本の統治はヨーロッパよりひどいことに気づき、抗日運動を戦うようになりました。しかし育鵬社は、このような日本に不利なことはまったく書いていません(YouTube『育鵬社の教科書ってどんな教科書!?』)」と、事実を歪曲して宣伝し、「戦争を賛美する教科書」とレッテルを貼っているのである。もちろん、保守系の教科書には、「(開戦時の)日本軍の勝利に、東南アジアやインドの人々は独立への希望を強くいだきました(『育鵬社』)」など、保守系以外の教科書では見られない記述もある。また、同じく保守系である自由社の教科書では、他の教科書が南京事件を掲載する中、唯一これについて記載しなかった。このように保守系ならではの編集方針や特徴は見られるものの、どう読んでも、「戦争賛美」、「戦争肯定」という批判は当てはまらない。教科書を実際に読むことなく、こうしたレッテルを鵜呑みにしている人も多いのではないだろうか。
公正・適切な採択の検証を
朝日新聞は、政府見解を踏まえるなどの新たな検定基準に対して、今年四月七日付の社説で、「教科書は国の広報誌であってはならない」と主張しているが、現状ではむしろ教科書がイデオロギー闘争の道具となっていないか。教科書採択においては、言うまでもなく学習指導要領に則ったものを基準とした上で、どの教科書ならば地域の教育目標に応えうるのか、子供たちに力を付けることができるのかを冷静に協議すべきである。調査員である現場の教員の声を聴くことも必要であるが、最終的には教育委員会の責任である。文部科学省が示した教科書採択の改革に従い、各採択地区において静謐な環境下で公正・適切な方法で採択が行われていたかを検証すべきである。
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