福岡教育連盟は教育の正常化を目指し、日々教育活動に励む教職員の集まりです。

私たちの主張

Opinion

平成27年5月20日

教育テーマ論点整理 アクティブ・ラーニング(1)~背景を探る~



高まるアクティブ・ラーニングへのかけ声


 平成26年11月に公表された「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)」において「『何を教えるか』という知識の質や量の改善はもちろんのこと、『どのように学ぶか』という学びの質や深まりを重視することが必要であり、課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる『アクティブ・ラーニング』)や、そのための指導の方法等を充実させていく必要があります。」とあるように、次期学習指導要領では「自立した人間として多様な他者と協働しながら創造的に生きていくために必要な資質・能力」を育むための学習・指導方法としてアクティブ・ラーニングが明示されている。   
また同年12月の中教審「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(答申)」においても高等学校教育について、「高大接続改革と歩調を合わせて学習指導要領を抜本的に見直し、(中略)課題の発見と解決に向けた主体的・協働的な学習・指導方法であるアクティブ・ラーニングへの飛躍的充実を図る」とある。従来から意識的に取り組んできた教師もいるのだろうが、ここにきて一気にアクティブ・ラーニングへの意識が高まっている。一体どういう背景があるのだろうか。 

大学教育の在り方についての変化


 アクティブ・ラーニングは日本では大学教育の改革という視点から生まれたものと考えられる。では大学教育のどこに問題があるのか。金子元久氏(筑波大学大学研究センター特命教授)は社会の変化に大学の役割の変化の要因があると指摘している。第一に科学技術の爆発的な拡大、グローバル化、知識社会化の進展を挙げる。つまり、新しい知識の進展への寄与が求められ、グローバル化により経済発展の基盤が新しい発見や新技術、新しいサービスの着想を必要とするという点である。第二に高等教育の拡大により、学力、意欲の面でこれまでと異なる進学者が生まれていることを挙げる。第三に若者のあり方自体の変化を挙げる。受験競争がもはや勉強のインセンティブとなり得ず、学習意欲と学力が低下している点である。この点を踏まえ、大学教育の役割について、社会と大学が明確なイメージを形成し、具体的に実現していくことを求めている。(『大学の教育力』ちくま新書 2007)

能動的学修への転換を求める質的転換答申


 アクティブ・ラーニングが明示されたのは平成24年8月の「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」である。この質的転換答申では、「従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である」とあり、学士課程教育の質的転換を求めているが、背景には我が国の大きな構造的変化を踏まえた今後の人材育成に関する議論において産業界や社会人として求められる汎用的能力が現行では十分に育成しきれていないという認識がある。学士課程教育については以前より種々の改善が行われてきたが、特に平成20年12月の「学士課程教育の構築に向けて(答申)」で大学の参考指針として提示された「学士力」について見ておく必要がある。「①知識・理解(文化、社会、自然等) ②汎用的技能(コミュニケーションスキル、数量的スキル、問題解決能力等)③態度・志向性(自己管理力、チームワーク、倫理観、社会的責任等) ④総合的な学習経験と創造的思考力」である。この答申では学士課程を通じた最低限の共通性が重視されていないという認識から学位授与の方針を具体化・明確化することを求めている。そして、こういった能力を育むための教授・学習形態は何かという問題意識の中で「アクティブ・ラーニング」に焦点があたることになったと考えられる。

高等学校、大学入試の課題


 先に挙げた質的転換答申においては「成熟社会において職業生活や社会的自立に必要な能力を見定め、その能力を育成する上で初等教育、中等教育、高等教育それぞれの発達段階や教育段階において有効な知的体験や体験活動は何かという発想に基づき、それぞれの学校段階のプログラムを構築するとともに、教育方法を質的に転換することが求められる」とある。まず、この文言にはキャリア教育の視点が認められる。同時に各学校段階の接続の課題についても言及している。特に高等学校段階においては、高等学校教育の多様化と大学入試の多様化や評価尺度の多元化による大学入試や接続の複雑な実態、そしてその結果として起こる高校生(特に学力中間層)の学習時間の減少を課題としており、基本的な知識・技能、課題解決のための思考力、それらを支える学修意欲、倫理的、社会的能力が基盤となって大学における主体的学修が可能となるという視点から高校と大学の連携を求めている点を見逃してはならない。
 アクティブ・ラーニングの導入に関しては、以上の背景的視点を踏まえ、まずいかなるゴール像を設定し、その達成のためにいかなる手立てをとるのか、学校の実態に合わせて議論することが先決であろう。