平成25年7月1日
「教育再生」を戦後教育の転換のチャンスに
教育改革の流れ
本年7月、文部科学省は平成24年度文部科学白書を公表した。第1部特集①「教育再生の実行に向けて」の第1節において近年の教育改革の道のりを概観している。四六答申(昭和46年)から臨教審(昭和59年~)、教育改革国民会議(平成12年)、教育基本法の改正(平成18年)、教育再生会議(平成18年~)、第1期教育振興基本計画の策定(平成20年)、教育再生実行会議(平成25年1月~)、第2期教育振興基本計画の策定(平成25年6月)まで、その時々の社会情勢を踏まえた提言と課題をまとめている。社会構造や価値観の急激な変化により、教育は常に大きな課題を抱えてきたが、この流れを押さえた上で、現在の教育再生の議論を見ていく必要がある。特に教育基本法の改正についてはかなりの審議を重ねて成立したもので、公共の精神、日本人が持っていた規範意識を大切にすることや伝統と文化を尊重するといった理念が明確にされている。この教育基本法の精神を現場レベルで具現化することが今後の教育再生の大きな柱であるとまず捉えておかなければならない。教育再生会議から教育再生実行会議へ
「社会総がかりで教育再生を」をスローガンとして平成18年に設置された教育再生会議の最終報告では「徳育と体育の充実」「学力の向上」「教員の質の向上」「教育システムの改革」「大学・大学院の改革」「社会総がかりでの対応」を軸に提言をまとめている。いわゆる教育三法の改正による教員免許更新制、新たな職の導入等成果もあるが、現在の教育再生実行会議に多くの課題が引き継がれている。例えば、道徳教育(徳育)の教科化、英語教育、理科教育の充実、教育委員会制度の改革、国際化を通じた大学改革などはすでに第3次までの提言の中に含まれている。新たに「実行」の名が付されているように政府の強い意志が表れている。また、グローバル化が進む中、日本は生き残れないという危機感、教育に対する信頼が大きく揺らいでいるという危機感が前提となっていることが読み取れる。危機感を共有し、議論を
ご承知の通り、教育再生実行会議はこれまで、「いじめ問題等への対応について(第1次提言)」(平成25年2月)、「教育委員会等の在り方について(第2次提言)」(同4月、「これからの大学教育等の在り方について(第3次提言)」(同5月)と足早に提言を行った。特に第3次提言のグローバル化に対応した教育環境づくりに関しては様々な議論が起こっている。まだ第3次提言が正式に出される前の論文であるが、皇學館大学教授の新田均氏の指摘は説得力に富む(正論平成25年7月号)。新田氏はグローバル人材育成のために、大学を中心として、外国人教員の大量採用、英語による授業の推進、日本人留学生及び外国人留学生の倍増、入学試験や採用試験におけるTOEFLの活用といった主張が主流となり、背景に日本の産業は世界の競争場で勝負できなくなるという国家的危機意識からきていることに理解を示しつつ、これらの諸提言は日本再生につながる施策とはならないと述べている。その理由として、産業を立て直す能力を備えたリーダー養成にならないこと、グローバル人材が日本の国益のために働くのか疑問であること、そもそも世界のグローバル化自体が幻想であり、日本文明の自滅への道になると危惧されることを挙げている。また、グローバル人材育成を日本文明の維持発展を目的とする文化的国家戦略の中に位置付け、文系の政策を「和魂」を育成する政策として強化し、英語教育や理工系教育は「和魂」を守るための手段としての「洋才」と位置付けて重視することを提案している。第3次提言には「グローバル・リーダーの育成」、「日本人としてのアイデンティティを高め、日本文化を世界に発信する」といった文言も見られるが、理念を明確にした具現化のためにさらに議論が必要だ。資源の配分をどうするか
さて国家財政も厳しい中、教育にかける予算には限りがある。教育社会学者苅谷剛彦氏はイギリスの教育と比較した上で日本の教育を次のように述べている。(『イギリスの大学・日本の大学』中公新書ラクレ)「『○○力の育成』といった議論が、目標や理念の段階でどれだけ熱っぽく語られても、それを実現するための具体的な方法や、そのための資源の配分となると空洞化してしまう。日本の大学教育論が空回りしてしまう一因は、社会の分断や資源の限界という現実をそらしたところで、市民社会という理想像やその実現のための教育が語られるからではないだろうか」。もちろん苅谷氏は特権的な恵まれた教育を行うイギリスの大学教育を安易に取り入れるべしと述べているわけではないが、真に国益を担うグローバル人材の育成の具現化に関しては重要な視点を与えている。戦後教育の転換する契機に
「教育再生」という言葉は学校現場で懸命に打ち込んでいる教師からすると今の教育を全否定されたようなネガティブな感情を導びがちだ。しかし、ここは日本全体の視点で、戦後教育の在り方を検証し、日本の持つ「底力」を最大限発揮できるような教育改革としなければならない。誇りある道義国家を築くためには人材育成が最大のカギとなるからである。
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