平成30年12月14日
社会で親子を育む
■「育む」とは?
「育む」という言葉は「羽(は)包(くく)む」が語源とされ、本来は「親鳥がその羽で雛をおおいつつむ」の意味であった。そこから転じて、ぬくもりのある環境で愛情を注ぎ、養い育てる意味が派生した。しかし、この二十年の間に、「育む」の意味は変質しつつあるのかもしれない。
■深刻化する児童虐待
全国の児童相談所が、昨年度に相談や通告を受けて対応した児童虐待件数は、十三万三七七八件で過去最多を更新した。二十年前の平成十年は一万件未満であったことを考えると、児童虐待に対して早急な対策が必要である。そんな中、本年三月に東京都目黒区で児童虐待の末に当時五歳の女児を死亡させる事件が起きた。
■女児虐待死事件までの経緯
この五歳の女児は、他県の児童相談所で二年前に約一ヶ月、一年前に四ヶ月ほど、一時保護をされた経緯がある。その情報が転居時に、児童相談所間で十分に引き継がれていなかったとされている。東京に転居して三ヶ月も経たないうちに、この女児は死亡した。家庭への公的機関介入の在り方を改めて問われる事件となった。
■児童虐待は他人事ではない
子育て経験者であれば、全く泣き止まない赤ん坊を抱いたまま途方に暮れる、という事態に陥ったことがあるかもしれない。自分には手に負えない状況で、助けてくれる者も全くいない。そんな状態が続くと、その延長線上に児童虐待が待ち構えているのではないか。決して他人事として、児童虐待を決めつけるべきではない。
■中央教育審議会答申
この女児が死亡した直後に、中央教育審議会から第三期教育振興基本計画に関する答申が出された。その「教育をめぐる現状と課題」の中で、次のように記されている。
―家庭の状況に目を向ければ、三世代世帯の割合が低下し、ひとり親世帯の割合が上昇傾向にある。家庭教育は全ての教育の出発点であることを踏まえ、子供の社会性や自立心などの育ちをめぐる課題に社会全体で向き合い、親子の育ちを支えていくことが重要であるが、このような世帯構造の変化や地域社会の変化に伴い、子育てについての悩みや不安を多くの家庭が抱えながらも、身近に相談できる相手がいないといった家庭教育を行う上での課題が指摘されている。―
現状を打開するため、第一に取り組むべきことは「社会全体で親子の育ちを支えていくこと」と「身近に相談できる相手をつくること」である。
■社会全体で親子を支える
幼少期の虐待体験に基づく自伝的小説を出した田村真菜さんは、今回の虐待死事件を受けて、「親を責めても事件は無くならない」とある新聞社の取材に答えている。さらに「暴力を振るわず子育てできる人は環境に恵まれただけ。私の親のように適切に子育てできない人がいても不思議はない。リスクを抱える家庭に外部からもっと積極的に介入する仕組みが必要」と述べている。地域や学校の役割が、これまで以上に重要度を増す。近年、多くの学校にスクールソーシャルワーカー等の専門家が配置されるようになった。しかし、児童・生徒をその専門家へ繋ぐのは教師である。しっかりとアンテナを張り、児童・生徒の変化を察知しなければならない。核家族化、地域コミュニティの衰退が進む中、保護者の次に、その子供たちに近い存在であるのは、教師の場合が多いに違いないのだから。
■相談できるコミュニティの再生
三世代世帯には、子育ての先輩がおり、常に相談できる環境があった。しかし、核家族化が進んだ現在は、相談する相手を見つけることさえ難しい。インターネット等で様々な情報は入手できるが、直接相談できたり、支援してもらえたりする、いわゆる「駆け込み寺」のような場所は少ない。自治体による「公助」の支援も重要だが、問題の根本に立ち返って、地域の輪を再生し、地域の大人がみな、子育ての当事者として親子の育ちを支えていく「共助」の構築こそ、今後の社会の持続、発展を図る上で、喫緊の課題である。良識有る大人たちが、心の羽を広げて、親子を優しく包み込むことができれば、児童虐待の件数は減少に転じるに違いない。
「育む」という言葉は「羽(は)包(くく)む」が語源とされ、本来は「親鳥がその羽で雛をおおいつつむ」の意味であった。そこから転じて、ぬくもりのある環境で愛情を注ぎ、養い育てる意味が派生した。しかし、この二十年の間に、「育む」の意味は変質しつつあるのかもしれない。
■深刻化する児童虐待
全国の児童相談所が、昨年度に相談や通告を受けて対応した児童虐待件数は、十三万三七七八件で過去最多を更新した。二十年前の平成十年は一万件未満であったことを考えると、児童虐待に対して早急な対策が必要である。そんな中、本年三月に東京都目黒区で児童虐待の末に当時五歳の女児を死亡させる事件が起きた。
■女児虐待死事件までの経緯
この五歳の女児は、他県の児童相談所で二年前に約一ヶ月、一年前に四ヶ月ほど、一時保護をされた経緯がある。その情報が転居時に、児童相談所間で十分に引き継がれていなかったとされている。東京に転居して三ヶ月も経たないうちに、この女児は死亡した。家庭への公的機関介入の在り方を改めて問われる事件となった。
■児童虐待は他人事ではない
子育て経験者であれば、全く泣き止まない赤ん坊を抱いたまま途方に暮れる、という事態に陥ったことがあるかもしれない。自分には手に負えない状況で、助けてくれる者も全くいない。そんな状態が続くと、その延長線上に児童虐待が待ち構えているのではないか。決して他人事として、児童虐待を決めつけるべきではない。
■中央教育審議会答申
この女児が死亡した直後に、中央教育審議会から第三期教育振興基本計画に関する答申が出された。その「教育をめぐる現状と課題」の中で、次のように記されている。
―家庭の状況に目を向ければ、三世代世帯の割合が低下し、ひとり親世帯の割合が上昇傾向にある。家庭教育は全ての教育の出発点であることを踏まえ、子供の社会性や自立心などの育ちをめぐる課題に社会全体で向き合い、親子の育ちを支えていくことが重要であるが、このような世帯構造の変化や地域社会の変化に伴い、子育てについての悩みや不安を多くの家庭が抱えながらも、身近に相談できる相手がいないといった家庭教育を行う上での課題が指摘されている。―
現状を打開するため、第一に取り組むべきことは「社会全体で親子の育ちを支えていくこと」と「身近に相談できる相手をつくること」である。
■社会全体で親子を支える
幼少期の虐待体験に基づく自伝的小説を出した田村真菜さんは、今回の虐待死事件を受けて、「親を責めても事件は無くならない」とある新聞社の取材に答えている。さらに「暴力を振るわず子育てできる人は環境に恵まれただけ。私の親のように適切に子育てできない人がいても不思議はない。リスクを抱える家庭に外部からもっと積極的に介入する仕組みが必要」と述べている。地域や学校の役割が、これまで以上に重要度を増す。近年、多くの学校にスクールソーシャルワーカー等の専門家が配置されるようになった。しかし、児童・生徒をその専門家へ繋ぐのは教師である。しっかりとアンテナを張り、児童・生徒の変化を察知しなければならない。核家族化、地域コミュニティの衰退が進む中、保護者の次に、その子供たちに近い存在であるのは、教師の場合が多いに違いないのだから。
■相談できるコミュニティの再生
三世代世帯には、子育ての先輩がおり、常に相談できる環境があった。しかし、核家族化が進んだ現在は、相談する相手を見つけることさえ難しい。インターネット等で様々な情報は入手できるが、直接相談できたり、支援してもらえたりする、いわゆる「駆け込み寺」のような場所は少ない。自治体による「公助」の支援も重要だが、問題の根本に立ち返って、地域の輪を再生し、地域の大人がみな、子育ての当事者として親子の育ちを支えていく「共助」の構築こそ、今後の社会の持続、発展を図る上で、喫緊の課題である。良識有る大人たちが、心の羽を広げて、親子を優しく包み込むことができれば、児童虐待の件数は減少に転じるに違いない。
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