平成28年11月30日
教育テーマ論点整理 「高大接続改革の進捗状況について」~高等学校基礎学力テスト(仮称)~
文部科学省は平成28年8月31日、検討・準備グループ等を設置し、検討を進めている「高等学校基礎学力テスト(仮称)」や「大学入試希望者学力評価テスト(仮称)」等、高大接続改革の現時点の進捗状況について公表した。高大システム改革会議「最終報告」(平成28年3月31日)を踏まえたもので、両テストの「実施方針」は平成29年度初頭に策定・公表の予定である。今号では、そのうち「高等学校基礎学力テスト(仮称)」(以下、「基礎テスト」と記す)の検討状況について整理する。
目的の大きな2つの柱
「基礎テスト」導入の目的は、「義務教育段階の学習内容を含む高校生に求められる基礎学力の確実な習得」と「学習意欲の喚起」とされる。基本的に各学校や設置者の判断により利用することが想定されており、本年度は民間事業者に委託(公募)して具体的な問題例の作成を行うとともに、基礎学力の定着に取り組む実践研究校(10府県12校)の協力を得て試行的に調査を行っている段階である(福岡県では朝倉東高等学校が実践研究校となっている)。なお、「基礎テスト」の検討・準備グループ(主査:荒瀬克己氏)では、先の目的を原点として、常にその原点を踏まえて検討を行うとしている。文部科学省は実践研究校における指導体制の整備、教材開発、また生徒の基礎学力の定着度や学習状況の把握やさらなる指導改善に活かすためのテスト手法等に関する仕組みや実施方法を調査研究するために平成二十九年度概算要求額2億8千8百万円を計上している。
検討の方向性と課題
基本的な仕組みについてまとめる。○実施時期は平成三十一年度試行実施で三十五年度実施。
○科目は当面は国数英として、複数レベルから学校が選択する。
○内容は記述式を含め、英語は「話すこと」を含む4技能。
○成績提供は学力定着度度合いを段階表示し、結果活用として当面、入試や就職に用いない
等、高大接続システム改革会議の最終報告に沿ったものとしている。
また、課題としては次の事項が挙げられている。
○目的に沿ったものとするため、名称は「テスト」ではなく、「診断」「検定」「検査」等、新たな名称を検討する。
○CBT、IRTについては現時点では安定的・継続的に活用可能と判断できる段階ではなく、引き続き専門的・技術的な研究・検討が必要。
注)CBTはコンピュータ上で実施する試験。IRTは項目反応理論の略称で、異なる試験の難易度の差による不公平さを排除するもの。多量の問題ストックと事前の予備調査が必要となる。
○問題の質、実施の安定性・継続性の確保のため、民間事業者の知見、ノウハウを最大限活用することが望ましい。このため、大学入試センターを改組した新センターで直接実施か新センターの統括・関与の下に民間事業者等が問題を作成し、実施、の両案を検討するとしている。
基礎テストに関する『28年度試行調査』の目的・全体像(案)
さて、今回注目すべきは基礎テストに関する『28年度試行調査』の目的・全体像(案)が示されており、(1)「本体調査」(2)「アンケート調査」(3)「共通技能としての読解力調査」からなる3つの調査を一体的に実施することを目指すとされていることである。(1)「本体調査」については実践研究校12校を対象にICT環境の状況に応じてCBT(オンライン方式)、CBT(外部媒体方式)、CBT及びPBT(ペーパー試験)併用から選択、内容としては国、数、英の3教科、うち英語は4技能測定とし、記述式は最低1問以上としている。(2)アンケート調査は、生徒には学校内外での学習状況や生活習慣等について、学校には生徒の状況や学校での授業、補習等の指導状況を尋ねるとしている。また、「共通技能としての読解力調査に関しては国立情報学研究所(NII)と連携して試験問題の指示や意図を正確に理解しているかなどを分析する。さらにこの3つはクロス集計分析を実施することとなっている。この調査結果を踏まえ、「実施方針」や「プレテスト」の実施方法や問題内容等へ反映するとしており、今後の制度設計に重要な意味を持つと思われる。具体性については乗り越えるべき課題が多数あるが、高等学校としては次期学習指導要領との関連から「基礎学力」とは何を指すのか、このテストによって「学習意欲」は増すのか、コストや負担面に見合う効果が期待できるのか、など今後の動向を注視の上、議論を重ねるべきであろうと考える。
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