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Opinion

平成27年9月28日

高大接続改革が現場にもたらす懸念



高大接続システム改革会議の中間まとめ


 文部科学省の高大接続システム改革会議(安西祐一郎座長)は八月二十七日、大学入試の見直し案等を含む「中間まとめ(案)」を示した。
大学入試センター試験に変わる「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」については現在の中一が高三になる平成三十二年度から実施するが、当面は多肢選択式に加え、短文記述式を導入、英語は4技能を重視し、スピーキングも検討するという。
 次期学習指導要領で学ぶ現在の小三が受験する平成三十六年度以降は、現在中教審で検討している地歴・公民、数学・理科の新科目にも対応し、思考力を問うための文字数を多くした記述式、さらにコンピュータ方式(CBT)の導入を提案している。 
 また、各大学には新テストの成績に加え、調査書、論文や集団討論などの結果を考慮して入学者選抜を行うよう求めている。
 昨年十二月に出された「高大接続改革答申」を受け、本年一月に公表された「高大接続実行プラン」の中で具現化のために設置された本会議だが、結論に至るのに難航しているという印象がある。

さらなる学力の二極分化


 この改革についてはすでに議論が噴出しているところであるが、大学入試センター名誉教授の荒井克弘氏の指摘は現場の感覚を踏まえていると感じる。
 氏は高校教育・大学教育・大学入学者選抜の一体的改革という政策主題に立ち返り、今回の改革の柱は「学力像の転換」「学力の再定義」にあると指摘した上で、次のように述べている。
「新しい学力像への転換という大事業を前にしては、『入試改革』も一つの道具立てに過ぎなかった。その筈(はず)であったのに、実は大変難物に手を触れてしまったことに、関係者は後で気付いたのかもしれない。教科科目型の学力像を後景に退かせ、時代の求める『「資質・能力(コンピテンシー)」を全面に押し出すのが、関係者の意図であったろう。ところが、その『資質・能力』は相変わらず抽象的なままで、教育現場で通用するものにはなっていない。」(日本経済新聞八月二十四日)
 もともとこの改革にはボリュームゾーンである学力中間層の学習時間の減少や大学入学者選抜機能の低下などが背景としてあり、その改善を促すものであった。しかし荒井氏はむしろ、それほど器用でない学力中下位層の混乱は避けがたく、学力の二極分化はさらに進むと危惧する。
「目標を高く設定すれば、教育の質が上がると考えるのは楽観的に過ぎる」との指摘には日々苦労しながら指導に取り組む多くの現場教員も頷くところであろう。

基礎学力テスト(仮称)の行方


 さて今回のまとめでは高等学校段階の基礎学力を評価する新テストの基本的事項についても提案されている。多様化の進む高等学校において共通に身に付けるべき基礎学力を確実に育成するという趣旨は理解できる。しかし、このテストが真に生徒の動機付けとなり得るかというと疑問である。少なくとも就職や進学にある程度反映されるものでなければ難しいのではないか。この件はこれから検討されることとなるが、複数回も想定される二つの新テストについては進路の多様な学校においては悩み多き事態をもたらすのではないかと考えられる。

理念は賛同、今後の課題


 日本教育新聞社が実施した調査では二つの新テストに対し、それぞれ高等学校関係者の約七割が賛同している。複数回実施については半数近くが反対している。「大学入学希望者学力評価テスト」に関しては改革の必要性は感じるものの授業がテスト対策に偏ることへの危惧や合教科・科目型、総合型への対応の不安、柔軟な教育課程を持つ私立や中高一貫校に有利になるという意見もある。
 今回の改革は保護者も極めて関心の高い事柄であり、失敗がゆるされない。適切な実施方法の検討においては早期に原案を提示するとともに、実情を知る現場からの提言も欠かせないであろう。

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